レーザーダイオードの光らせ方

 レーザーポインター完成品は1ミリワット未満のものしか販売されていない。しかし、パーツとしてのレーザーダイオードなら5ミリワットまでは容易に手に入る。だが、光らせられなくては意味がない。

 日本では自主規制しているのか、パーツであっても5ミリワットまでしか普通は売っていない。だが、更に強力なレーザーダイオードも手に入る。
 これは、52倍速のCD−Rドライブ(4800円)を分解して取り出した、書き込み用のレーザーダイオード。出力は100ミリワット以上あるはずだが、波長が780nm前後と長いため肉眼の感度が悪く、非常に暗くしか見えない。

 可視光を楽しみたい場合、波長によって肉眼の感度が大きく違うことを軽視できない。同じ出力でも、635nmの光は650nmの倍ほど明るく見える。だが、635nmクラスのLDは650nmクラスの何倍も高価である。
 肉眼で明るく見えるLDを国内で入手するなら、書き込みできるMDをバラすのが手である。DVD−Rもそれなりに使えるがCD−Rはお薦めしない。

 大抵のLDは3本足である。そして良く見ると、うち1本が筐体に直結されている。これが+である。希に−のこともあるのでデータシートが入手できるならチェックすること。
 残る2本の足は−だが、一方がLDを光らせる入力、もう一方はLDが出す光をモニターするフォトダイオードである。

 光らせるだけならフォトダイオードは無視して良い。乱暴だがどっちかに電極つないで光った方がビンゴだ。しかし普通に電池を接続しても全く光らないか、一瞬でLDが壊れるかのいずれかの確率が高い。

 大抵の電気製品では、動作させるための「電圧」が問題となる。
 ところが、LDは動作「電流」が問題となる。電圧に関しては、動作可能な最低電圧が定義されている。最低電圧以上の電圧を与えた上で、所定の量の電流を流せばLDは光る。
 しかし、電圧を制御するのに比べて電流を制御するのは面倒である。

 実験用に余り多くない電流を流す場合、三端子レギュレータを使った定電流回路がシンプルである。LM317は良く使われる。抵抗1本で好みの電流が作れる。
 LM317は抵抗が付いてる2本の足の間の電圧を1.25Vにキープしようと働く。このように例えば27Ωの抵抗を付けると、Ωの法則により1250ミリボルト÷27Ω=46ミリアンペアの定電流が流れる、。

 これは秋葉原の千石で売っていたLD。三洋電機の DL-3147-011 とある。
 スペックは波長650nmで出力5ミリワット。発振開始電流30ミリアンペアで定格45ミリワット。
 スペックに「電圧」なるものが書かれていないのがいかにもLD的だ。通常、赤のLDは2ボルトと考えて良い。
 これに、↑の46ミリワット定電流を供給してやる。
 +が赤線の足に、−を青線の足に接続。フォトダイオードの足は切ってある。

 これでLDが赤く光る。しかしこれで話は終わらない。見ての通り、レーザーと言うくせに懐中電灯のように光が広がっている。
 これが半導体レーザーの特徴だ。電力をレーザーに変換する効率が高くコンパクトな半導体レーザーは便利だが、そのままでは光が広がってしまう。

 DL-3147-011 は水平7.5度、垂直30度の広がりとなっているが、平均的には10度×40度程度に拡散する。
 市販のレーザーポインターでは、凸レンズで集光することで、細いレーザービームにしているのだ。この集光用レンズのことを、コリメートレンズと呼ぶ。

 コリメートレンズは非常に小さくて焦点距離の短いものが必要だ。入手は面倒なので、市販の1000〜2000円のレーザーポインターをバラして使うのがお手軽。もちろん市販品を壊すとなれば、市販品と同等の1ミリワットクラスのLDを光らせても意味がない (^_^;)

 これで一応は市販品より遥かに明るい自作レーザーポインターが作れるが、問題が残っている。例に取り上げた定電流回路は、三端子レギュレータ部分に4〜5V以上の電圧が必要なのだ。これは比較的シンプルな定電流回路一般に言えることで、十分な電圧差が無いと定電流特性が出ない。
 世間には定電流ダイオードという便利なものがあるが、これも4〜5V以上の電圧差を確保する必要がある。
 LD自体に2Vの電圧差が必要なので、これではバッテリーとして6〜7V以上のものを使わねばならない。LDは2Vあれば良いのに、9V角電池を使ったりするのは余りに無駄だ。

 市販のレーザーポインターは乾電池2本で動くよう、遥かに複雑な回路が組み込まれている。
 具体的には、これまで無視していたフォトダイオードである。LDの光の強さをモニターし、電流をダイナミックに制御しているのである。これを自作回路で作るのはかなり面倒である。
 そこで一案が、単なる電流制限抵抗である。LDと似たものにLEDがある。LEDを光らせるには電流制限抵抗1本で済ませることも多い。同じことをLDでもやれば良いのだ。この場合、電源の電圧が変わるとLEDの明るさが変わってしまう (逆用してバッテリーが十分残っているかどうかをLEDで示すのは良く行われる)

 だったら、電源の電圧を一定にすれば良い。
 例えばニッケル水素充電池3本で3.6V程度を作れば、三端子レギュレータで3Vを作れる。LD自体に2V必要だから残りは1Vだ。
 そこで、LDと直列に22Ω程度の抵抗を接続し、3V定電圧を供給すれば45ミリアンペア前後が流れる。
 ただし赤LDでもジャスト2Vとは限らないため、この方法を使うならキチンと定格を調べる必要がある。

 写真は大出力LD対応に、10Ω抵抗2本並列にしてある。これで200ミリアンペアを安定して流せる。

三端子レギュレータ使用上の注意

 三端子レギュレータは作り出す電圧よりもある程度高い電源が必要だ。どの程度の電圧差が必要なのかは確実にスペックシートで確認せねばならない。電源電圧が不足して必要な電圧差が得られない場合、出力電圧が下がってしまう。これではLDを安定してドライブできない。
 三端子レギュレータの出力を安定させるには十分なバッテリー電圧が必要。特に、大電流を流す場合はバッテリー電圧が予想外に低下することがあるため、出力不安定になり易い。
 また、スペックシートで推奨されているコンデンサーを着けないと、出力が安定しない。
 これらに注意すれば、三端子レギュレータの出力電圧はリップルやノイズが少なく、LDのドライブに適している。

 LDのドライブに必要な抵抗の目処を立てたら、それより2倍ほど抵抗値の大きな抵抗をまず接続してみよう。これでLDを光らせ、抵抗の両端の電圧差を測定する。これにより実際に流れる電流が分かるので、改めて最終的な抵抗値を決定する。
 LDは定格以上の電流を流すと急速劣化するため、抵抗値一発キメで回路を作るのは危険だ。

 三端子レギュレータは並列接続厳禁である。並列接続したい場合は、各レギュレータ個別に抵抗を接続すること。
 LDドライブに必要な電流が1.5アンペア程度以下であれば、三端子レギュレータの使用を勧める。シンプルにLDを光らせられる。

 これは、黒共立モジュールの基板を取り外し、励起用レーザーダイオードを自前でドライブした例である。
 かなりのやっつけ仕事で見た目は悪いが、全く何の問題もなくレーザーが発振されている。

 電源は単三ニッケル水素電池3本。
 モジュールの発熱対策をしていないため、連続発振は数秒に留めねばならない。

 Low Drop 型の三端子レギュレータで3ボルトを作り、電流制限抵抗を接続しているだけ。
 金属板は三端子レギュレータの放熱用。

 抵抗は2.4オーム(1.2オーム × 2本)である。
 トリガー用の赤いスイッチは、三端子レギュレータの入力+電源ラインに入っている。

 

強力レーザーダイオードの入手

 書き込み可能なDVDやMDをバラせば強力なLDが入手出来るが、余りに資源の無駄であるし取り出したLDのスペックも不明だから電流を流し過ぎて壊す可能性も高い。そこで、素性の分かったLDを購入したくなる。
 国内では5ミリワットを越えるLDはなかなか売っていないが、外国から個人輸入すれば簡単に買える。いつも書いてるように「購入」は法的制限を受けないため、税関を問題なくパスする。個人輸入が野放しなのは一見問題だが、そうでもないと思う。大人であれば個人輸入は容易だが、18歳未満が独力でやるのはほぼ不可能。つまり実質的な18禁として働いているのだ!

 検索エンジンを駆使すると、あれこれ宝物が転がっている。頑張って探してみよう。しかし外国のサイトの場合、実際にモノが来るまでは安心出来ない。メールを無視されたり外国からはクレジットカード不可とか、場合によっては輸出禁止だよ!とか、あれこれハードルがある。しかし、数々の苦労を乗り越えてカスタムレーザー、ハンドメイドレーザーを作るのも醍醐味ではないだろうか?
 だって、誰でもその気になればそう苦労せず買えるものを所有していたって喜びは少ないじゃないの。

 赤外線レーザー、特に808nm近辺は非常に強力で安いLDが売られている。肉眼に見えないのでそのままでは面白くない。だが、レーザーは「見て楽しむ」だけが用途ではない。

 

DVDレーザーの作り方?

 一般にDVDレーザーと呼ばれる自作レーザーポインターがある。ネットではあちこちで話題になるせいか、そういう名前の何か特別に自作し易いシロモノがあるかのように勘違いしてるシロウトも多い。しかしそうではない。レーザーダイオードを自前で光らせて製作する普通のポインターである。単に、入手困難な(そこらで売っていない)高出力の可視光LDを入手する手段として書き込み可能なDVDをバラしたもの、という程度の意味だ。
 だから、このホームページの情報だけでDVDレーザーは作れるし、作れないのであれば勉強不足。無理に作ろうとしてもLD壊して丸損するのがオチなのでヤメといた方がいい。一方で基本的な知識があれば、未成年者でもハイパワー赤色レーザーポインターが作れる。

 

レーザーダイオード取り扱い注意点

 LDは良く壊れる。あらゆる半導体の中で最もひ弱なデバイスと言っても過言ではない。

1)静電気に弱い
 一般に半導体は取り扱う上で静電気に注意せねばならない。しかし、耐性はデバイスによって違う。
 LDはあらゆる半導体の中で最も静電気に弱いと言って良い。普通の半導体なら壊れないような微弱な静電気で壊れる。「耐」圧など無いと知れ!
 どんな微弱な静電気であっても、流れたら終わり。気付いたら壊れている。
 そのため、必ずアースを取って体の静電気を逃がして取り扱わねばならない。これまで半導体を触って壊したことがない環境でも、LDは壊れる。

2)過電流に弱い
 絶対定格を上回る電流が一瞬でも流れたら壊れる。二度と性能は戻らない。
 一瞬なら大電流に耐えられるLDはパルス対応(QCW)製品として売られているが、QCWのLDであっても耐えられるパルスの最大電流や長さは厳密に決まっている。それをオーバーすることは、いかなる場合でも取り返しがつかない

3)熱に弱い
 特に耐熱性能に触れられていない半導体の場合、一般に耐熱温度は70度である。
 しかし、LDの殆どは50度までしか耐えられない。推奨温度は30度まで。このため、普通の半導体の常識では考えられないほど大袈裟なヒートシンクや放熱対策が必要となる。ハンダ付けも慎重さが要求される。
 レーザー発振装置をコンパクトにしようと欲張って放熱対策が甘くなると、出力の低下や寿命の極端な低下を招く。LDを腫れ物に触るよう扱えば10000時間程度の寿命があるが、少しでも無理すると数時間以内に寿命が来ることも珍しくない。自作レーザーポインターでこの罠にハマることは多い。

4)汚れに弱い
 典型的なレーザーは発振のために非常に高精度かつ高性能のミラーを必要とする。半導体レーザーの場合はミクロン単位の微小結晶の表面が原子レベルの平坦さになっており、出力ミラーの役目を果たしている。僅かな汚れでも放射パターンが乱れたり出力が大幅に低下する。パッケージ形態によっては発光部分が剥き出しであり、うっかり何かに接触させたり何かを燃やした煤が付着しただけでジ・エンドとなる。

ハイパワーレーザーが欲しいなら、サイズを小さくするのは諦めろ!
小さいレーザーが欲しいなら、身の程に合った出力で満足すること。

 

戻る