レーザーの明るさを解説する |
例えばエアガンの照準用にレーザーポインターを搭載する場合、視認可能なためにはどの程度の出力のものを使えば良いだろうか?
そもそもレーザーは通常の照明器具に比べてどの程度明るいのだろうか?
明るさの単位はルクスが良く知られている。これに対して、最近流行の強力懐中電灯(マグライトやシュアファイアーなど)では、ルーメン単位でカタログが記載されている。ルーメンは総光量で、ルクスは単位面積当たりの光量である。
1ルーメンの総光量を1平方メートルの広さに照射すると、平均光量が1ルクスである。100ルーメンのライトなら、1平方メートルを照らすと平均100ルクス、5平方メートルを照らせば20ルクスとなる。6〜8畳間で使う普通の家庭用室内照明は5000〜6000ルーメンだ。これで床や壁など20平方メートルを照らせば平均250〜300ルクス・・・という感じになる。
さて、ワットとルーメンの関係は光出力1ワット=683ルーメンと定義されている。では100ワットの電球は68300ルーメンかと言えばそうではない。電球のワットは光出力ではなく消費電力だからだ。前述のように通常の室内照明は5000〜6000ルーメンしかない。
これに対し、レーザーのワット数は光出力で示される。だから、1ワットのレーザーは683ルーメンかと言えばこれも違う。ワットとルーメンの関係式には、波長555nmにおいて、という注釈が付いているのだ。人間の目はこの波長の緑の光を最も明るく感じる。それより長い波長(赤)も短い波長(青)も、暗く感じてしまう。対555nm比でどの程度の明るさに感じるか?という比率を、比視感度と呼ぶ。比視感度が0.5であれば、ルーメン値も半分になってしまう。
比視感度が厄介なのは、年齢によっても変化することである。若者は相対的に青い光を明るく感じ、老人は赤い光が良く見えるのである!
ここでは代表として30歳代の比視感度を使ってみる。なお、感度のピークは年齢によらず555nmとされている。
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波長532nmのグリーンレーザーは約0.85、635nmの赤は約0.21、650nmになると約0.1である。
目にすることが多い3つの波長だが、532と635と650は光出力が同一でも、明るさは8:2:1の比率に感じるのである。635nmのLDが非常に高価なせいもあるのか、一般販売のレーザーポインターはほぼすべてが650nmである。規制適合の1ミリワットのグリーンレーザーは赤いレーザーの8ミリワットに匹敵し、規制前の5ミリワットの赤よりも明るいのである!
現在2000円程度で売っている650nm1ミリワットのレーザーポインターは0.07ルーメンしかない。一方、マグファイアやシュアファイアは50〜200ルーメンである。懐中電灯の1000分の1の明るさなのだ!
レーザーポインターは照射点こそ明るいが全体の光量は非常に小さく暗いというイメージは、極めて正しい。規制前のような人気が雲散霧消したのも無理はない。
これに対し、グリーンレーザーで100ミリワットなら58ルーメン。懐中電灯と堂々渡り合える明るさとなる。光らせて楽しむならDPSSグリーンレーザーは最適なのだ。実際に真っ暗な部屋の中で天井に照射すれば部屋一杯に緑の光が溢れ、床に置いた新聞を楽々と読める。
市販レーザーポインターは1ミリワット未満であり、1ミリワットちょうどではないことに注意。5ミリワット未満表示のクラス3Aレーザーポインターを実測すると1.1ミリワットだったなんてことも。市販レーザーポインターの殆どは0.05ルーメンもない。
さて、暗いレーザーでも小さな面積に照射すれば明るくなる。これがレーザーの最も得意とするものだ。0.07ルーメンでも1平方センチに集中すれば700ルクスの明るさになる。
照射点を視認するには、どの程度の面積に集中させれば良いだろうか?
「容易に照射点を探し出せる」条件を照度比1:2 (環境光:照射点)、「照射場所が分かっていれば視認可能」な条件を1:1.1と定義してみる。照射点にはレーザー光線と環境光がプラスして加わるので、環境光:レーザー光に直すと前者は1:1で後者は1:0.1となる。
実際には環境光が照射面に差し込む角度とレーザー照射の角度、それに観察角度が絡んで視認し易さはかなり変化するのだが、目安としてはレーザー光のルクスが環境光のルクスと同じであれば良い、というのは分かりやすい基準ではなかろうか?
環境 | ルクス | 650nm 1mW | 635nm 5mW | 532nm 100mW |
直射日光 | 100000 | 0.9ミリ | 3ミリ | 27ミリ |
日中日陰 | 10000 | 3ミリ | 9.5ミリ | 86ミリ |
室内 | 300 | 17ミリ | 55ミリ | 50センチ |
夜 | 2 | 21センチ | 67センチ | 6メートル |
これに基づいて、各環境で容易に視認できるための照射点の直径を計算してみた。照射点は円と仮定している。
レーザー光線は少しずつ広がる。これは、光の回折現象のため避けられない。通常のレーザーポインターでは1ミリラジアン前後である。これは、距離が1メートル離れる毎に照射点の直径が1ミリ大きくなるということだ。
回折はビームの射出直径が大きくなるのに比例して小さくなる。しかし、余りに小さな点になって肉眼の分解能より小さくなると、視認性は向上しない。照射点がでかいほど見つけ易いし肉眼の分解能が0.3ミリラジアン程度なので、視認性優先なら絞ってもせいぜい0.5ミリラジアンまでである。
射出直後のビーム直径を1ミリ、広がりを1ミリラジアンと仮定し、ビームが上表の直径に広がる距離を計算するとこうなる。
環境 | 650nm 1mW | 635nm 5mW | 532nm 100mW |
直射日光 | 実用不能 | 2メートル | 26メートル |
日中日陰 | 2メートル | 8.5メートル | 85メートル |
室内 | 16メートル | 54メートル | 500メートル |
夜 | 210メートル | 670メートル | 6キロ |
ビームの射出太さが無視できるほどの距離にあると、ビーム直径は距離に比例して大きくなるとみなせる。照射面積はその2乗に比例するから、照射場所が分かっていれば視認可能な距離は10のルート、距離に直して3倍強となる。
レーザーポインターの有効射程はこの表、最大射程は3倍と考えておけばほぼ間違いない。ただし、前述のように <1mW の製品は1ミリワットに達しないため、夜でも210メートルの有効射程は無い。規制適合品のレーザーポインターは大抵100〜150メートル届くと記載されている。もう完全に室内専用であり、規制前の強力なレーザーポインターでも昼間に屋外で使うのは難しいことが分かる。室内での使用が前提なら数ミリワット以内の赤レーザーで十分使えるが、屋外で数十メートルの射程でBB弾を撃つエアガンの照準に使うなら緑の強力レーザーでないと実用にならないのである。
赤色レーザーの逆襲?
しかし、赤色レーザーは皮膚を良く透過する。レーザーポインターで指を照らしてみたことはないだろうか?
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650nm 2ミリワット | 532nm 30ミリワット |
赤だと指先がLEDになったかのように光る。これに対し、緑は指の表面で強烈に反射され、透過しない。
写真では指の腹から照らしているが、指の背中から照らすと数ミリワットの赤なら血管を見ることも可能だ。これに対し、見た目の明るさでは100倍以上もある緑は、全然貫通しない。
懐中電灯的明るさに注目すれば赤レーザーはお呼びじゃなくなりそうだが、緑も万能ではない。それなりにハイパワーな赤レーザーも手持ちに加えておきたい。